SAS検査の流れ
SASの疑い
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診断は、患者の自覚症状や睡眠評価の結果、家族からの情報、合併症の存在などを確認してSASの疑いがあるかを確認します。
受診
SASの疑いがある場合、専門の医療機関にて診察を受けることをお勧めします。
医療従事者の監督の下、睡眠検査を行うことになります。
AHI*≧40
AHI<40
AHI≧20
5<AHI<20
AHI<5
CPAP治療開始
CPAP個人購入
CPAP以外の治療
正常
*無呼吸低呼吸指数(AHI)
AHI(Apnea Hypopnea Index)は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診断に用いられる指標の一つで、1時間あたりの無呼吸(呼吸が10秒以上停止)と低呼吸(呼吸が通常の半分以下になる)の合計回数を示します。
AHIの値が高いほど、SASの症状が重いと判断されます。
AHI
重症度
5未満
正常
5以上15未満
軽度
15以上30未満
中等度
30以上
重度
簡易検査
(スクリーニング)
簡易検査は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の疑いがある患者様が最初に受ける、自宅で行う検査です。この検査では、特別な装置を用いて、睡眠中の呼吸パターン、呼吸努力、酸素飽和度(SPO2)、心拍数などを記録します。これらの情報を基に、医師がSASの有無を判断します。
簡易検査は、精密検査とは異なり、脳波や筋電図などは記録しません。そのため、睡眠質やSAS以外の睡眠障害の検出はできません。また、患者様自身で装置を装着し、ON/OFFを操作するため、AHIが低く記録されることがあります。そのため、簡易検査の結果がAHIが40以上の場合は、精密検査を受けることなくCPAP治療の保険適用対象となります。
簡易検査でAHIが40未満の場合でも、SASの疑いが強い場合は、精密検査を受けることになります。
精密検査
精密検査は、終夜睡眠ポリソムノグラフィー検査(PSG)を用いて行われ、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の確定診断に必要な検査です。PSGでは、簡易検査の検査項目に加えて、脳波、眼球運動、筋肉の動きなどを記録します。簡易検査と比較して検査項目が多いため、より正確な診断が可能となります。また、SAS以外の睡眠障害や睡眠の質も測定することができます。
通常、この検査は専門の医療機関で行われ、専門の技師が患者さんの睡眠を観察します。しかし、近年では在宅での実施も可能となっています。
この検査でAHIが5未満の場合は、正常(睡眠時の呼吸状態に問題がない)と判断されます。
AHIが20以上の場合は、保険適用でCPAP治療を受けることが可能となります。
CPAP以外の治療
現在の医療制度では、保険適用によるCPAP治療を開始するためには、AHIが20以上であることが必要とされています。しかしながら、AHIが20未満の軽度から中等度のSASを治療せずに放置することは適切ではありません。
軽度のSAS患者さんは、健康な人々と比較して、高血圧、空腹時血糖値異常、糖尿病などの疾患の発症リスクが高いとされています。さらに、SASの重症度は時間と共に進行する可能性が示唆されています。
そのため、AHIが20未満の患者さんに対しては、CPAP以外の治療法を推奨しております。CPAP以外にも様々な治療法がありますので、それらのメリット・デメリットを考慮に入れつつ、適切な治療法を選択していただくことが重要です。
・生活指導
多くの場合は、体重増加や加齢による筋力低下、過度な飲酒などがSASの原因になっています。そのため、
SASの重症度を問わずすべてのSAS患者さんには、生活習慣の改善が指導されます。
・神経筋電気刺激療法
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の患者さんは、往々にして上気道筋の強度は保持しているものの、その耐久性が低下していることが見受けられます。これは加齢や生活習慣、その他様々な要因が影響し、上気道の筋繊維が耐久性の高い遅筋繊維タイプIやIIaから、耐久性の低い速筋線維タイプIIbへと変化するためです。
神経筋電気刺激療法(NMES)は、電極を舌に接触させ、低周波の神経筋電気刺激を与えることで上気道筋を刺激します。骨格筋刺激に関する医学的な研究によれば、NMESは筋細線維タンパク質の変化を促進し、疲労しやすい線維から疲労しにくい線維へと変化させるとともに、細胞骨格の強化にも効果があるとされています。
この治療法の最大の特徴は、夜間の睡眠中ではなく、日中に行うトレーニングであるという点です。1日20分の日中のトレーニングにより、軽度のSASやいびき症の患者さんの上気道筋の耐久性を向上させることが可能です。
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・体位変換療法
体位変換療法は、体位依存性のSAS患者さん向けの治療法です。体位依存性SASとは、他の体位に比べて仰向けの状態(仰臥位)で無呼吸指数が倍以上になる状態を指します。SASの患者様の約56%、単純いびき症の患者様の約75%が体位依存性であると言われております。
体位変換療法は、睡眠中の体位変換を促進することで、仰向けの睡眠を防ぐ治療法でございます。
近年では、横向きの枕やマットレス、テニスボールタイプなど、様々な商品が発売されております。しかし、睡眠を妨げない程度の振動を与えて体位変換を促す、振動刺激タイプが主流となりつつあります。振動刺激タイプは他の治療器に比べて、一つの体位に固定する必要がなく、患者さんが自由に体位を変えることができるため、身体への負担が少ないことが特徴です。
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・口腔内装置療法
「口腔内装置(Oral Appliance:OA)療法」は、睡眠時に装着することで咽頭部の上気道閉塞を改善する効果が認められている治療法です。この装置は、睡眠時無呼吸症候群の診断を受けた患者さんに対して、医師の依頼により歯科医が作製します。その後も定期的な歯科管理が必要となります。
口腔内装置には、「下顎前方整位型(MRA)」と「舌整位型(TRD)」の2種類がありますが、特にMRAは世界的に広く普及しており、睡眠時の気道閉塞の改善に有効とされています。
ただし、この治療法にはいくつかのデメリットも存在します。長期間にわたり下顎を前に突き出す口腔内装置を装着することで、顎の関節に負荷がかかる可能性があります。また、就寝から起床まで長時間装着するため、毎日洗浄液に浸けて殺菌する必要があります。
・外科的手術
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療法として、外科的手術が選択肢として考えられます。この手術は、主に上気道の閉塞を改善することを目的としています。具体的な手術方法としては、鼻中隔湾曲症の矯正、鼻茸の除去、口蓋垂の切除、扁桃腺の除去などがあります。これらの手術は、鼻や喉の構造的な問題が無呼吸の原因となっている場合に有効です。
また、より重度のSASの場合には、下顎前方移動術や舌根部切除術などの大掛かりな手術が行われることもあります。これらの手術は、上気道の広がりを物理的に広げることで無呼吸を改善します。
しかし、これらの手術はリスクも伴いますし、全ての患者さんに効果があるわけではありません。そのため、手術を選択する際には、患者さんの症状や体調、生活習慣などを考慮した上で、医師と十分に話し合うことが重要です。